魔術ビギナーのためのO∴H∴特別講座

初級占星編


ここでは魔術ビギナーのための占星術知識を紹介します。いわゆる“占い”とは無縁ですので、彼氏彼女との相性がどーのこーのという話を期待しないように。

 まずは基本中の基本である用語解説。

 まず、「4月1日生まれだから“おひつじ座”」というあれ。この“なになに座”というのは一般人の言い方。ビギナーとはいえ魔術修行者を目指す人間は“白羊宮”と言わなければなりません。

 “なになに座”という言い方は天文学で用いるもので、占星術のほうでは“宮”を使うのであります。

星座名 十二宮名 sign
おひつじ座 白羊宮 Aries
おうし座 金牛宮 Taurus
ふたご座 双児宮 Gemini
かに座 巨蟹宮 Cancer
しし座 獅子宮 Leo
おとめ座 処女宮 Virgo
てんびん座 天秤宮 Libra
さそり座 天蠍宮 Scorpio
いて座 人馬宮 Sagitarrius
やぎ座 磨羯宮 Capricorn
みずがめ座 宝瓶宮 Aquarius
うお座 双魚宮 Pisces


 さて、ちょいとややこしいお話をしなければならない。

 むかしむかし、いまから2000年以上前、いわゆる占星術が確立した頃、毎年の春分点を起点に黄道上の星座群を十二分割して十二宮とする方法が採用されたのですな。当時、春分点は現実の星座のおひつじ座の位置にあったため、星座の名前がそのまま宮の名前になった。

 ところが春分点は歳差運動のためにおよそ72年で1度ほど東から西に移動していくのです。そのため占星術の“宮”と現実の星座は年々ずれていき、現在ではほぼ24度もずれているわけで。にもかかわらず占星術ではあいかわらず毎年の春分点を白羊宮の0度として各惑星の位置を表記しているため、たとえば太陽が白羊宮にあるとしても、現実の太陽はうお座にあるという事態に至っておるのですわい。

 黄金の夜明け団ではこのずれを遺憾に思い、十二宮を現実の星座に対応させて固定する占星術(サイドリアル・アストロロジー)を採用したのですな。したがって魔術文書に記述される十二宮は、一般的占星術(トロピカル・アストロロジー)の宮ではなく、現実の星空上の具体的面積である場合が多い。

 すなわち通常の占星術では白羊宮といえばだいたい3月22日から4月21日までの“期間”であるのに対して、魔術的占星術の白羊宮は星空上の具体的面積なんですな。

 以上の解説で「さよか」とわかった人はえらい。ぴんとこない人のほうが多いでしょうな。そういう人は、とりあえず星座盤を買って自分で夜空を観察し、星座を具体的に確認してみましょう。さらには天文学の入門書を読んでおおまかな基本を叩きこむこと。大都市およびその近郊で星の観察がむつかしい場合は、プラネタリウムを利用しましょう。

 ようするに魔術ビギナーに必要とされる占星術知識とは初歩の天文学知識なのであって、「しし座のラッキーナンバーは8」とかいう代物ではないのですな。『月刊天文ガイド』とか『スカイウォッチャー』といった一般向け天文雑誌も読んでおくとよいでしょう。

 めんどうでもこのあたりをきちんと押さえておかないと、あとあと苦労しますぞ。


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注 歳差運動 地球が完全な球形ではなく赤道部がふくらんでいるため、主に太陽と月の引力が作用して独楽のみそすり運動が生じる。これにともなう赤道面の向きの変化が春分点の移動となってあらわれる。春分点は約25800年で黄道を一周するのであって、これを「グレート・イヤー」とか「大プラトン年」と称する。

 春分点歳差は紀元前二世紀にはヒッパルコスによって発見されており、同時に一種の神話的時間論も生んでいる。すなわち春分点がおうし座にあった2100年間、人類は牛を神としてあがめており、続く2100年間は羊が神となった。さらに魚が神となる時間が2100年続いたのであって、やがては水瓶が神となる時代が到来すると想定されているのである。具体的にいえば、だいたい紀元前4000年から2000年までは牛の神モロクの時代。2000年から紀元元年までは羊の神アモンの時代。紀元元年から2000年までは魚(イクチウス、イエス・キリストの象徴)の時代であって、その後は水瓶の時代(アクエリアン・エイジ)になるわけですな。