1792年刊行『ボナ・モルス信徒会手帳』

70mm*124mm、全96頁。5バンド革装丁

ボナ・モルス
或は
幸せに死ぬ術

付録として

ロザリオ

聖フランシスの十字架


及び

30日間の祈祷

わたしは天の声を聞いた
書くがよい、主のうちに死す者たちは幸いなり

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ボナ・モルス信徒会は1648年10月2日にイエズス会傘下団体としてローマにて創立。1729年には大規模信徒会として贖宥符を発行する権利を認めらている。

上の小さな書物は、この団体が英国に進出して英国内のカトリック教徒向けに刊行した式次第マニュアルといったところである。いわばカトリック版の「死者の書」といえようか。

ボナ・モルス最大の特徴はやはり“Art of Dying Happily”という人目を引く一節であろう。そして英国ではマイノリティーであるカトリックを大同団結させる目的もあったのか、イエズス会傘下団体のマニュアルでありながら、ドミニコ会のロザリオ、フランシスコ会の十字架祈祷と、ライバル組織の目玉商品も収録している点が面白い。

あるいは英国ボナ・モルスは、来世や死後世界観を意識する信徒会としてスウェーデンボルグ教会あたりと勢力争いを演じていたのか、興味の種は尽きない。これといった確証を得られない主張となるが、小生としては19世紀中頃から急速に普及する心霊術の土壌として、ボナ・モルス等の信徒会の存在を指摘しておきたいのである。

「みなが守るべき規則は以下の如し。一つ、われらの救い主が十字架に掛けられた3時間を思い、日に三度主の祈りと目出度しマリアを唱え、自分と会衆のために幸せな死が与えられるよう祈るべし…二つ、会員は万難を排して毎月一度秘蹟式に出席すべし。されば会員は全贖宥を得るであろう。また煉獄にて苦しむ魂に対しても、代祷という手段によって全贖宥を与えることが可能である…」

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ボナ・モルスに限らず、この種の宗教的マイナー刊行物に記されているイレギュラーな祈祷や瞑想日課もまた、西洋魔術の原型のひとつと見なすのが小生の考えである。

また小生の持論としては、木版タロットの意匠的ルーツはこの種の信徒会刊行物に求めることができる。16世紀初頭の印刷時祷書を皮切りに、ロザリオ・マニュアルや一般祈祷書に挿入された木版がタロットカード印刷に流用されたものと思われるのである。たとえばロザリオに見られる交唱聖歌に絵をつけるとどうなるか。



聖母マリアの称号連呼にあたり、78頁後半から始まる一連の流れを見よ。「正義の鏡」、「叡智の座」、「喜びの源」、「霊の器」、「徳の器」、「驚くべき信仰の器」、「神秘の薔薇」、「ダビデの塔」、「象牙の塔」、「黄金の家」、「契約の櫃」、「天の門」、「暁の星」と続くイメージに絵をつけたマニュアルがあったとしてもなんら不思議はないのである。



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