カルト危険度チェック

 オカルト系につきまとう否定的要素として、“カルト”というものがあります。純真無垢な青少年がこれに引っかかり、人生を台無しにするのであります。話を近代魔術系に限っても、19世紀には奇怪なカルト(なかには機械カルトまで)が百花繚乱しております。

 話は二十世紀に入ってもなんら進展を見せず、何年周期かでアホな(そして危険な)カルトが雨後の竹の子するわけでして、それは英国のみならず仏国でも米国でも同じです。

 二十世紀後半、アメリカはカリフォルニアで爆発したオカルトブームであります。無論のこと、お馬鹿カルト(あそことあそこ)から超危険カルト(すでに壊滅)まで目白押ししたのでありまして、ゆえに当時新進気鋭のオカルティストであったアイザック・ボーニッツがその著書『真実の魔術』増補改訂版に「カルト危険度チェック」を載せて関係者各位の啓蒙を図ったのも無理からぬことと申せましょう。

 本稿ではボーニッツの「チェック」を引用させていただき、解説やさらなる補足を加えてみたいと思います。



アイザック・ボーニッツ作「カルト危険度チェック」

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内的支配度 指導者(層)がメンバーに及ぼす集団内支配力 。 ______________________
叡智宣言度 指導者(層)が主張する叡智。指導者の無謬性 。 ______________________
叡智信頼度 メンバーが指導者(層)の決定を信頼する度合い。 ______________________
ドグマ度 伝授される教義の厳格性、柔軟性のなさ。 ______________________
勧誘度 新人募集の強調。宣伝の度合い。 ______________________
隠れ蓑度 本体とは別の名称で活動する副次団体の数。 ______________________
金銭執着度 要求してくる金銭と財産。メンバーの寄付の強調。 ______________________
権力志向度 対外的政治権力の願望ないし既得度。 ______________________
セクハラ度 指導者(層)がメンバーの性生活に及ぼす支配度。 ______________________
10 検閲度 外部意見や外部集団への接触を制御する度合い。 10 ______________________
11 脱出防止度 脱出者を防ぐ、あるいは戻すための努力の度合い。 11 ______________________
12 暴力容認度 集団ないし指導者(層)が暴力を用いる際の容認度。 12 ______________________
13 妄想度 実在、架空の敵や勢力を感知し、恐怖する度合い。 13 ______________________
14 陰鬱度 集団や教義や指導者(層)に対する冗談への非寛容度。 14 ______________________
15 従順度 メンバーが個人的決定をしなくてよいとする強調度。 15 ______________________


 以上15項目、自分が入っている集団ないしこれから加わろうという集団に関して、0から9まで点数をつけます。15項目すべて合計して、高得点ならばカルト度が高いという仕組みです。

 まず1から4までのチェック項目ですが、おおむね教義面と申せましょう。有無を言わさぬ上意下達、教祖の言葉は絶対なり。すべては教祖さまにおまかせしておけばいいのよ。わが教えは不磨の聖典なり。口答えはすなわち異端なり。

 5からは組織面のお話になります。「ひとりでも多くの方を悪魔の手から救いだすのです」とか「世界中に真理の光を広めましょう」とか、表現はいろいろあるのでしょうが、ようするに新人勧誘です。毎月何人とかノルマがあったりすれば最高9点を与えてよいでしょう。

 6の隠れ蓑度。本体のほうがすでに評判が悪い場合に多いのです。いきなり生贄系黒魔術集団では誰でも引きが入るわけで、そこはそれ、まず「タロット」とか「護符」とか、あたりさわりのないワークショップを別名義で開いて、徐々に深入りさせるわけで。そんなのを幾つもやってるようなら最高9点。

 7はわかりやすいでしょう。よくあるのが「スライド制」。貧乏な人は小額、お金持ちは多額という、一見まともな雰囲気のやつです。しかし具体的にいくらと明言しないほうが恐ろしいのです。年収の5パーセントといった要求をするカルトもあります。この場合、たとえばロックフェラー一族の人間ならものすごい金額になるため、いきおいカルト側はお金持ちの一本釣りに夢中になります。

 8に関していえば、たとえば有名政治家の○○先生もうちの信者だとか、このあいだの政界のあの騒動、実はわれわれが描いた筋書きだったとか、そういうことを吹聴すると6ポイントゲット。有名人との2ショット写真を飾っている教祖さまも7ポイント獲得。

 9のセクハラはいうまでもない。教祖や導師という立場で弟子にセックスを迫ると9ポイント獲得。A君はB子さんと結婚しなさい、ただし性交渉は行わずにひたすら天使の到来を待ちなさいなどと指示をするようなら8ポイントゲット。

 10はなかなか微妙なところが多い。全体、固有名詞が少なく、参考文献も明示しないようなら5ポイントゲット。他派の人とは口をきいてもいけないという雰囲気があるなら6ポイント、別の流派の本を持っている、読んでいるというだけで懲罰の対象となるようなら8ポイントゲット。悪いデータを入れると正しい判断が出来なくなるとか言い出すなら9ポイント。

 11の足抜け対処法もピンきり。やめると云う人間をリンチする、監禁するようなら9ポイント。相互監視で連帯責任とか言い出すようなら7ポイント。逃げたメンバーをみなで探して駅に張りこむとかするようなら9ポイント。

 12の暴力容認度は、たとえば導師が行う体罰の有無。指導と称して圧倒的な暴力を披露し、信者を恐怖で支配するとか。あるいは暴力自慢の幹部の存在。そういったところを判断して点数をつけましょう。

 13。うちは敵に狙われている、真理を説くと悪魔が邪魔をするとか主張する。敵はいろいろあって、フリーメーソン、イエズス会、ドミニコ会、CIA、KGB、イルミナチ、ジョージア州に潜む十万人のモンゴル兵、宇宙人、地底人、最低人その他。魔術戦を開始して赫赫たる戦果を報告するようになると9ポイントゲット。

 14。ユーモアの欠如は自己批判の欠如と同じ。自分をネタに笑いを取れないようなら3ポイント。日頃、他派の悪口ばかり言っていて、自分がちょっとでも批判されると烈火の如く激怒するなら5ポイント。集団全体に暗い雰囲気が漂い、じめっとしているなら6ポイント。

 15。何事も上に任せていれば間違いないと、下が思い込んでいる度合い。上がたいがい変なことをいったりしたりしているのに、下がなんとも思わないなら5ポイント。その変さ加減でプラスマイナス。


 以上、15項目。すべて0という組織は、逆にいえば組織とはいいがたいのです。

 カルトが素人を説得する際の決り文句というのがありまして、覚えておいて損はないでしょう。

 「実行もせずに判断するな」、「とりあえずやってみてから言え」−−やらずに判断するのが智恵というものです。虎穴に入ってそれっきりでは洒落になりません。

 「だまされたと思ってやってみろ」−−そしてだまされます。「だまされたと思って飲んでみろ」と言われ、飲んでみたらLSDだったというのは多い話です。どんなに頑丈な人でも銃で撃たれれば終わり−−同様に、どんな強靭な精神でも薬物を打たれれば終わりです。

 とある集団が大丈夫かどうか、それを判断する最良の方法は長年の観察です。過去の事例でいけば、だいたい10年前後でぼろが出るようです。




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