正しいルシファー像

 天使や悪魔の画像は多数残されておりまして、この先も多数製作されるでしょうが、ことの性質上、これが正しいという根拠あるいは基準が存在しないわけです。おまけに天使や悪魔に関する聖書の記述はあいまいそのもの、両者の道徳的位置付けすら一貫していない。天使とて剣を手に大虐殺を行う始末ですわ。

 それでいてわれわれは「大天使ガブリエル」といわれると反射的に処女マリアに受胎告知するレインボウ・ウィングを想起してしまう。フラ・アンジェリコが描き、現在サンマルコ美術館に収蔵されているあれですな。

↑あれ


 結局のところ画像が有する「説得力」はかなりの部分、作者の有名度や作品の来歴に帰するのであります。そしてこの点、天使画像は有利であります。それこそラファエロやミケランジェロといった有名どころが描き、有名教会や美術館に納められておるわけですから。
 一方、悪魔画像のほうはボッシュの奇怪なイメージに代表される無名奇形種ばかりですし、アスタロスならこの絵、ベヘモスならあの絵といったリファレンスが難しい。結局プランシの『地獄事典』にあるイラストが業界スタンダードとして流通しております。

 そういった状況のなか、今回、実に由緒正しくかつ権威に満ち溢れた「ルシファー」を発見いたしましたのでご報告申し上げます。とりあえず、現物をご覧ください。

↑現物


 有翼の少年が円盤と松明を持っておる姿でありまして、これが「正しい」ルシファーの姿であります。この画像が発見された場所がなんとも由緒正しくかつ権威があったわけですな。すなわち、このルシファー像、あろうことかバチカン市国聖ペテロ大聖堂の地下墳墓に眠っておったのです。かのカトリックの総本山はローマ時代のネクロポリスの上に建築されておりまして、最近になって地下遺跡の学術調査が行われ、多数の壁画等が発見されたのです。そのなかにあったのがこのルシファー像です。その後バチカンが出した発掘調査報告書にも「ルシファー」として紹介されており、いわばカトリックが正式に認知したものと申せましょう。
 この画像ならばどこからも文句のつかないルシファー、暁の星の姿です。ま、ご参考まで。

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