タロット図像学

五寸釘の天使


 左はボッティチェリが描いた「聖バルナバ祭壇画」(部分)の天使。
 この天使は聖母子の右側に位置しており、手にしている巨大な釘がイエスの十字架上の受難を予兆している。
 イエスの磔刑に用いられた釘は伝統的に三本とされており、両掌に一本ずつ、両足の甲を重ねて一本という配置である。



 19世紀中葉にフランスで描かれた通俗的マーテル・ドロローサすなわち「悲しみの聖母」画。

 心臓に刺さる七本の短剣は、神殿奉献の際のシメオンの予言「剣はあなた自身の胸をも刺し通すであろう」に由来し、「聖母の七つの悲しみ」を表現している。具体的には「シメオンの予言」、「エジプト逃避行」、「博士たちとの議論」、「十字架の道行」、「磔刑」、「十字架降下」、「昇天」を指す。

 手にする茨冠と三本釘は受難予言の成就を表している。



 コールマン・スミスが描いたライダー版の剣の3。

 黄金の夜明け団のタロット文書では、剣の3は「悲しみの主」とされており、これを図像化するにあたって参考にされたのが七本短剣図であり、また三本釘であったものと思われる。剣の3はビナーの空気でもあるから、背景には雲が描かれている。

 全体ライダー版は、ウェイトの趣味であろうが、キリスト教色が濃いのある。



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