タロット聖人伝

 聖マグダラのマリア(1世紀)

 イエスの直弟子の一人にして謎多き美女。

 伝承によればマグダラは貴族の娘であったが放蕩の果てに身を持ち崩し、娼婦となっていた。その後イエスと出会って悔い改め、生涯を信仰に捧げたとされる。

 彼女はマルタの妹であり、またイエスに香油を注ぐ女であり、磔刑に立会い、さらには復活したイエスに最初に出会う人間である。マグダラ伝説は複数の女性のエピソードが合体したものと考えられている。

 ただしマグダラはイエスの弟子たちの活動を記録する使徒行伝には一切登場しない。このあたりが謎とされ、昔からあれこれ推測・憶測の対象となった所以である。

 左はクリヴェリが描いた妖艶かつ美麗なるマグダラ(1475頃)。持ち物は香油壷である。




 マグダラはイエスの昇天後に南仏プロバンス地方に渡り、三十年に及ぶ厳しい修道生活を送った。最期には天使に迎えられ、被昇天したと伝えられ、その場面がしばしば絵画等で表現されている。

 左はウンターリンデン所蔵のレレドスに見るマグダラ被昇天図(15世紀末)。マグダラは三十年の修道生活で毛髪が伸び放題に伸びて全身を覆い隠したため衣服を必要としなくなったとの伝承があり、ゆえに裸身のままの登場となるのである。

 申し訳程度の布帯一枚にて天使に運搬されている。




 マルセイユ版の「世界」は構造上「マグダラ被昇天図」と同一といえる。周囲の四聖獣はエゼキエル書の智天使であり、ようするに運搬者である。一見花輪に見えるものは、マンドルラと称する中世絵画の光背形式であろう。

 「世界」の札の原形としては勝利のキリスト図や聖母被昇天図が挙げられるが、ことマルセイユ版に関してはマグダラ被昇天図が最有力候補となるであろう。少なくとも版木職人が中世のマグダラ図を参考にしたことは間違いないといえる。

 なお伝道者としてのマグダラの主戦場はマルセイユであるとされている。11世紀以来、かの港町の守護聖人として尊崇されている点も見逃してはならないであろう。


四聖獣による運搬の例
ラファエロのエゼキエル図
マンドルラの例
マンテーニャのキリスト昇天図


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