タロット聖人伝

聖ニコラス St Nicholas (4th century)

ミラの司教。実人生の詳細は事実上不明。小アジア南部のパタラにて出生。ディオクレティアヌス帝の治世下にて獄中生活を送る。ミラにて死去。確実なデータはこれだけといえる。

 説話上のニコラスはほぼ魔法使いの域に達していて、無数のエピソードを持つ。とりわけ有名なものとしては、貧困ゆえに娼婦に身を落とそうとしていた三人の娘たちに3個の黄金の玉を贈って窮状を救う話がある。このあたりの話がのちのサンタクロース伝承の起源といわれている。

 左はマザッチオが描いた聖ニコラス。右手に持つ3個の黄金の玉がアトリビュートの定番である。豪華な司教服にはニコラスがなした数々の不思議が描かれている。

 この3つ玉はのちに質屋のシンボルマークとなり、現在でも欧州各地の質屋の店頭でみることができる。


 ニコラスがなしたミラクル中、もっとも不気味なものが「三少年の蘇生」である。

 とある街道沿いの宿坊の主人がとんでもない悪党で、通りがかった三少年にしびれ薬を飲ませてこれを殺害。死体を切り刻んで樽に入れ、酢漬け(塩漬け説も有力)にして宿坊のメニューに加えようとした(水滸伝あたりによくあるエピソード)。それをニコラスが祝福ひとつで蘇生させたという伝説である。

 左はジャック・カロのカレンダーに見る聖ニコラスと三少年図。12月6日が祝祭日である。

 なお、この三少年のエピソードに関しては、面白い説が唱えられている。いわく、例の三つの金の玉が頭頂剃りした少年の頭と誤認され、さまざまな物語を生んだ結果であるという。この説は多数のカトリック関係の文献に記載されている。




マルセイユ版の教皇

 そもそもこの教皇のデザインは、上半分に較べて下半分が雑というか不可解なラインが多すぎるのである。頭頂剃りした二人の司祭が描かれ、左の司祭は帽子を背負っていると考えるのが自然であろうが、これはもしかしたら聖ニコラス図を流用したものではなかろうか。帽子と思しきものは頭頂剃りした人物の頭と見えないこともない。

 なお、ヴィスコンティ・スフォルザ版の教皇には他の人物は描かれていない。プロト・タロットのひとつと見なされる「ゴールドシュミット」の教皇相当カードなど、聖ニコラスそのものである。


 フレミッシュ・バンデンボーレの教皇相当カード「バッカス」に樽が描かれている点も気にかかる要素とはいえる。



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