タロット聖人伝

聖ロクス(1350頃−80頃)

 モンペリエ出身の隠者にして巡礼。裕福な商人の家庭に生まれるも信仰に目覚め、生涯を巡礼に費やす。巡礼中にペストに罹患するが、森の中で犬に食物を恵んでもらいながら闘病し、奇蹟的に回復するという伝説を有する。中世にあっては伝染病患者の守護聖人として絶大な人気を博する。

 左はクリヴェリが描いた聖ロクス(1470年頃の製作)。片足の靴下を下ろして腿の付け根にあるペストの病痕をあらわにするというのが作画上の約束であり、これに犬が加わることも多い。

 聖ロクス人気が高まるにつれ、中世ヨーロッパではロクスもどきの偽病人が横行することとなった。わざわざ靴下をおろし、樹液等を用いてつくった偽の病痕を見せつけて物乞いをする放浪者が各地に出没したのである。


マルセイユ版の愚者

 このデザインは明らかに聖ロクスおよびロクスもどきの放浪者をモチーフとしている。襟の先端に付けられた鈴は疫病患者の存在を遠くから知らせるため。靴下をおろして太腿をあらわにするのは病痕を見せるためである。犬もロクス伝の主要な小道具である。

 なおタロッコ・イタリアーノの愚者では、背中にPの字を縫いこんだチョッキを着用する場合がある。イタリア語の pazzo 「狂人」の略と考えられているが、むしろペストのPであろう。



戻る