SUICIDE
ITS
HISTORY, LITERATURE,
JURISPRUDENCE,
CAUSATION, AND PREVENTION

BY
W. WYNN WESTCOTT, M.B. LOND.
DEPUTY CORONER FOR CETRAL MEDDLESEX,
JOINT AUTHOR OF THE
EXTRA PHARMACOPEIA

LONDON:
H.K.LEWIS, 136, GOWER STREET, W.C.
1885




心霊術

とりわけ合衆国には狂気の原因にして自殺の原因と見なされる精神的要因がさらにもうひとつある。筆者はそれの現代的称号すなわちスピリチュアリズムとして言及したい。アメリカではこれまで、心霊術の信者が事実上の精神病者か否かをめぐって真剣に議論が交わされてきた(バックナム)。そこまで極端な見解でなくとも、多数の発狂例ならびに自殺例がこの原因に帰せられることを念頭に置いておくことはきわめて賢明である。
 人間が肉体を維持しつつ死者と交信を持てるとする信仰、および交信の試行、さらに霊の啓示を真実と見なす前提等がからみあい、夢見がちなタイプの人間の精神に致命的な影響を与えることが頻繁であったといえる。筆者自身、きわめて正気かつ分別のある若き医学徒が心霊術神父を通じてこの種の信仰に染まった例を目撃している。かれはメスメリズムの手法に類似する手段によって神秘的あるいはオカルト的性質の情報を得ようとしたのである。悲しい話となるが、ほどなくかれは宗教的恐怖を覚えて精神的に不安定となり、自ら命を絶ってしまった。それまで自己破壊傾向などまったく見られなかった人物であったのだが。
140p

解説

ウィン・ウェストコットが1885年に発表した医学系啓蒙書『自殺』より一文を抜粋してみた。ご覧の通り、心霊術の危険性を説く部分であり、後の「黄金の夜明け」団に見る心霊術嫌悪の原型ともいえようか。

ミドルセックスの監察医であったウェストコットは、当然ながら他殺自殺の遺体に接することが多く、その筆は説得力に富む。しかしこの書物の面白い点は他にもある。基本的に歴史好きな筆者は、ローマ時代の有名な自殺者、聖書にある自殺例、英文学に見る自殺者を紹介し、さらに近代の自殺例を動機別に分類していく。いわばこれは自殺例のコレクション本なのである。それなりに読み応えのある好著といってよい。



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