T. Sturge Moore

(1870-1944)



Thomas Sturge Moore (1870-1944)

T・スタージ・ムーア 英国の詩人、画家、版画家、装丁家。

1870年3月4日、ヘイスティングにて七人兄弟姉妹の長子として出生。父親は医師。
幼少期は近くにあったクリスタル・パレスを遊び場とする。
学齢に達してダリッチ校に入学。在学中に罹患した猩紅熱のために学業に遅れが生じ、成績的には不振。同好の友人とともに『ブーメラン・クラブ』を創立。同人誌を出したり、演芸会を催す。

1884年、ダリッチ校を中退。この年、後に妻となるいとこのマリー・アッピアと出会う。
1885年、クロイドン美術学校に入学。同校の講師をつとめていたチャールズ・シャノンから芸術的に影響を受ける。
1887年、シャノンのすすめでランベス美術学校に転校。チャールズ・リケッツの生徒となる。翌年にはリケッツとシャノンが住んでいた家の近所に引越し、ほぼ共同生活状態に入る。

1892年から雑誌等で積極的に作品の発表を開始。リケッツの出版社The Vale でシェイクスピア全集の編纂に従事。ギリシャ神話等に題材を得る一連の神話詩で注目を浴びるようになる。

1899年7月、処女詩集 The Vinedresser を発表。好評を持って迎えられる。文壇詩壇に友人知己も増え、とりわけW.B.イエイツとの交流が始まる。

1903年、マリー・アッピアと結婚。1907年までに二児をもうける。この時期、演劇活動に没頭。

1910年以降、文壇の要職を歴任。
1912年、インドの詩人タゴールと知り合い、公私にわたるサポートを開始。
1次大戦中は、文筆による収入が減少し、大いに困窮する。
1920年、友人の尽力で公的年金を獲得。

その後も次々に詩集や戯曲を発表し、1944年に死去。


スタージ・ムーアはイエイツ等に誘われて交霊会などに出席しているが、顕著なオカルト傾向は見られない。とりわけイエイツと数年にわたって交わした「ラスキンの猫」論争では常に懐疑的姿勢を崩さなかった。しかしイエイツ、リラダン、タゴールといった詩人たちの本の装丁を行うと、詩人たちが有する神秘的、魔術的奥義を簡潔にデザインしてみせるのである。






The Snow Queen (unpublished)

原画の複製に詩句を添え、母へのクリスマス・カードとしたもの。裏面に"To dear Mamma with Tom's love. Xmas 1890"との書き込みあり。1890年当時、スタージ・ムーアはまだ20歳の画学生である。リケッツ&シャノンと本格的に活動をともにするようになるのが1892年以降であるから、この作品は最初期のものといってよい。絵画部分を複製と判断する根拠は、光に透かして見た場合、ベタ部分が均一に見えることを主とする。詩句部分も印刷である可能性も否定できない。描かれている「雪の女王」はどこか東洋風であり、ガンダーラ仏を思わせる。右下に見えるTSMのモノグラムも貴重である。詩句部分は以下の如し。

The Snow Queen.

The clear sky like a shielded dome of steel, supported by the lofty housewalls of the night, stood over the white dead body of the earth.
The open space in the heaven was filled by the sound of ringing bells, as with the voice of hope, in token of the birth of the holy Jesus.

A wind swept past as a ghost. then I beheld coming out from the blackest court under heaven. a cloud
Our Lady of Snow went in front of the cloud. She came calmly her splendid form & rounded limbs clad in fantastic white draperies, & outlandish ice armourings, her tiara fretted & jewelled by cunning frost
fingers. In silence she trod the land subject to her. Cruelly she smiled nor was there any warm breath in her nostrills. So she passed me
Left alone in darkness, blindly struggling: the cloud so muffled me about that the former happy noisey bells, I no longer heard. Only the dead lips of the snow petals kissed my blind face.


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初期木版画 early woodcuts 1890s - 1900

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 T・スタージ・ムーアの木版画は、氏の持つ稀有の気性を正々堂々と表現したものである。かように当たり前の、あたかも朝の光の如く闊達にすべてを通徹する声明に紙面を割かざるをえないのも、なにせ昨今木版であれ銅板であれ、そこそこの技量をもって刻まれたものはなんであれ賞賛するというのが流行りであるからだ。とはいえ芸術の心を有する版画家であれば、すぐにかような流行りの空虚さを悟る。版画たるもの、腕のあるなしにかかわらず心のなかにあるものを版上に刻むしかない。悲しいかな、木版も銅板も、視野も想像も欠く愚鈍なる精神を映し出すこと頻繁なのである。

 ここにある作品群はそうではない。これらのうち、初期の作品はあの幸福な90年代にヴェイル・プレスに関わったものであり、巷間よく知られる作者の詩歌と相和する幾多の音符と見てもよい。印刷された言葉とイメージが明かすものは、吸収され、慈しまれ、深遠なる発意に至った親密なる特質といえよう。「このような時代にあって尋常でない」発意なのであり、アルトドルファーやピエロ・ディ・コジモ、あるいはアルバート・カルヴァートに近いというか、稀有の階級に属するのである。

 ここにある小さなデザインたちは、木材のなかからごく自然に生まれ、進化してきた。ペンや筆やチョークでもこの子たちが生まれたはずだ、とはおよそ考えにくい。それは訴える。慎ましく、それでいて人の心をつかむ。決して断言はしない。これらの「カット」に技量が存在しないわけではない。とりわけ後期の「カット」には高度の技が見て取れる。しかし技量は常に発意に従属し、または完全に調和している。技量を見せびらかす傲慢は過ぎゆく一日の見世物となろう。
しかし傲慢は長続きしない。傲慢は愛ではない。

 われわれに敬意を抱かせる作品は多い。興味を、驚きを、あるいは恐怖を抱かせる作品も多い。愛を覚えさせる作品は少ない。この慎重に警護された「閉ざされた庭園」のなかに、わたしは無比の発意のための場所を見出してきた。他の多くの人々も同じく見出すであろう。 

セシル・フレンチ








Reveries by W.B. Yeats

Macmillan and Co., London, 1917. 213pp.

スタージ・ムーアの装丁によるイエイツ本の第一作。詩人の子供時代の回想録。塔の上空より下る手、その指を握る赤子、塔の基底部の扉から半身を見せる人物。背表紙上部には花を摘む手が描かれる。
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Responsibilities by W.B. Yeats

Macmillan and Co., London, 1917. 187pp.

スタージ・ムーアが装丁したイエイツ本の二作目。紺地に金のギルトで描かれた樹木と鷹。
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The Cutting of an Agate by W.B. Yeats

Macmillan and Co., London, 1919. 223pp.

イエイツのエッセイ集。紺地に金のギルトで描かれた仮面と棒数珠。
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The Tower by W.B. Yeats

Macmillan and Co., London, 1928. 110pp.

スタージ・ムーアの装丁によるイエイツの代表作。緑地に金のギルト。イエイツの住居となった塔が水面に映るさまを描いている。このデザインはイエイツも大いに気に入っており、いわく「あなたがデザインしてくれた『塔』の表紙は実に豊かで、重厚にして美しい。このところあの場所に行くことができないため、こうも見事にそっくりに描かれていると、それだけで嬉しくて、あなたには感謝の言葉もない」とのこと。
 この詩集にはあの名作「ビザンチウムへの船出」や「万霊節前夜」が収録されており、資料的価値も高い。
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Last Poems & Plays by W.B. Yeats

Macmillan Company, New York, 1940. 126pp.

イエイツの没後に出版された遺作集。ファルコニエ等のエジプシャン・タロットを思わせるデザインが注目に値する。本体カバーにダストジャケットと同じデザインのブラインドエンボス。
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dustjacket cover



Book Design

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Power of the Air, Grant Richards, London, 1920.

77pp. 223mm*145mm.

アリストクレス(プラトン)とソクラテスの対話を軸とする哲学短編。

スタージ・ムーアは実弟がケンブリッジの哲学者ジョージ・エドワード・ムーア(1873-1958)という縁もあり、哲学方面への関心が強く、バートランド・ラッセル等の著作にも通じていた。



Tragic Mothers, Grant Richards, London, 1920.

66pp. 223mm*145mm.

能に影響を受け、簡素な舞台装置だけで上演できるよう構成された詩劇を集めたもの。「メディア」、「ニオベ」、「ティルフィング」の三篇を収めている。三篇中、「「メディア」がもっとも評価が高い。

表紙に描かれているのはメディアの短剣、ニオベの子供たちを殺す矢、そして魔剣ティルフィング。



The Little School, Grant Richards, London, 1918.

63pp. 223mm*145mm

愛児ダンとリエッテのために書かれた児童向け詩集。児童向けという衣を羽織りつつ、意外なまでに神秘方向へ目を向けた作品が多い。

丸抜きの窓内に戯れる子供たちを配する構図。
Danae & Blind Thamyris, Grant Richards, London, 1920.

64pp. 223mm*145mm

『ダナエー、及び盲人タミュリス』。「ダナエー」はスタージ・ムーアの初期の傑作詩篇であり、何度も改訂されている。真鍮の塔に幽閉され、鏡に映る自身の姿を友として美しく成長するダナエーを官能的に描くという意欲作。「盲人タミュリス」はやはりギリシャ神話に取材した懲罰物語であり、ミューズたちを凌駕する詩才を自慢して神々により視力と詩才を奪われる。他にゴードン・ボトムレイに捧げる詩「昔日」が収録されている。

真鍮の塔、丸窓から見える裸身のダナエー。j降り注ぐ雷の矢と落雷により破砕される樹木。作者名を納めるスクエアには、木箱に乗せて流されるダナエーとその子ペルセウスが描かれている。塔のモチーフはTSMが随所で用いる重要なシンボル。

Judas, Grant Richards, London, 1924.

111pp. 223mm*145mm.

『ユダ』は100ページを越える長編詩であり、キリストを裏切るユダの姿を克明に描く意欲作といえる。巷間に伝わるユダ伝承を上手に利用しながらクライマックスへと収斂していく手際は見事といってよい。

三基の十字架、落雷、十字架の底部でとぐろを巻くドラゴン。イエス・キリストを象徴する十字架に"Judas"と文字が入るため、鮮烈な効果を生んでいる。落雷は処刑の瞬間を表現するがゆえに画面全体に緊張感をもたらしている。







Book Design for Others

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Cloudesley Brereton Mystica et Lyrica, Elkin Mathews, London, 1919.

126pp. 195mm*145mm.

古式ゆかしく予約後援者を募って出版された詩集。巻頭に最大後援者であるレスター伯への献辞が入り、巻末に予約後援者450名余の氏名がアルファベット順に記されている。スタージ・ムーアも後援者の一人であり、その縁で表紙を担当したと思われる。第一部ミスティカに21篇、第2部リリカに21篇の詩が収められていて、各編が有力パトロンに捧げられる形式である。スタージ・ムーアにはリリカ篇の "Nature's Green Room"という詩が与えられている。

地上の詩心であるリリカ、天上を想うミスティカを上下に配する構成。やや大きめの「スタージ・ムーア」という画家名。

詩人ブレレトンはアンリ・ベルグソンの英訳者としても著名。ベルグソン自身も予約後援者に名前を連ねており、またミスティカ部冒頭の詩はベルグソンに捧げられている。








F. Pearce Sturm Eternal Helen, Bail Blackwell, Oxford, 1921.

56pp. 195mm*145mm

著者フランク・ピアース・スターム(1879−1942)はオカルティストにして詩人、後年は医師として地域医療に奉仕する日々を過ごしている。イエイツとは古い友人であり、詩作のアドバイスを貰ったり、オカルト関連の情報交換を行っていた。世間一般にはボードレールの英訳者として著名。

1921年、それまで書きためた詩に発表済みのものも加えて詩集『エターナル・ヘレン』を出版。古代エジプトを舞台とする連作等、神秘的なテーマを有するものが多い。

『エターナル・ヘレン』の装丁に関してはスターム自身がイエイツに報告をしている。「スタージ・ムーアが新作のカバーと扉のデザインをやってくれることになりました。また20ポンドで蔵書票を作ってくれるそうです。大金ですが、それだけの値打ちはあるでしょう」『イエイツへの書簡』下巻382頁)。

青地のクロスにギルト。星空と高山と神殿、蜘蛛の巣、上下に巨蟹宮と磨羯宮の占星術記号。
(そのままでは判別しづらいのでモノクロ線画加工図版を参考のため貼付しておく)。








The Crescent Moon by Rabindranath Tagore

Macmillan and Co., London, 1913. 82pp.

インドの詩人ラビンドラナート・タゴール(1861-1941)が英訳したベンガルの児童詩集。"To T. Sturge Moore"との献辞が記されている。濃紺地に金の三日月をあしらったこの装丁はスタージ・ムーアの代表作のひとつといってよい。よく眺めると、三日月はハンモックで寝ている子供である。

 タゴールは1913年にノーベル文学賞を受賞しており、ほぼ同時期に出版されたこの詩集は当然ながら注目を集め、版を重ねている。当博物館所蔵の一冊は1929年版である。

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bibliography

main works

The Vinedresser and other poems, Unicorn Press, London, 1899.
Aphrodite against Artemis, a Tragedy, Unicorn Press, London, 1901.
Absalom; a Chronicle Play in Three Acts, Unicorn Press, London, 1903.
The Little School: a posy of Rhymes, Eragny Press, 1905.
Tragic Mothers, Grant Richards, London, 1920.
The Power of the Air, Grant Richards, London, 1920.
Judas, Grant Richards, London, 1923.

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books designed by Sturge Moore

W.B. Yeats
Reveries
Responsibilities
Per Amica Silentia Lunae
The Wild Swans at Coole
The Cutting of an Agate
Selected Poems
Four Plays for Dancers
Four Years
The Tower
The Winding Stair
Letters to The New Island
Last Poems and Plays


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Studies

Cecil French edited. T. Sturge Moore, The Little Art Rooms, London, 1921.
Frederick L. Gwynn, Sturge Moore and the Life of Art, University of Kansas Press, Lawrence, 1951.
Ursula Bridge edited, W.B. Yeats and T. Sturge Moore, their Correspondence 1901-1937, Oxford Unversity Press, New York, 1953.
Sylvia Legge, Affectionate Cousins: T. Sturge Moore and Marie Appia, Oxford University Press, Oxford, 1980.




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参考資料 チャールズ・リケッツによる装丁

スタージ・ムーアの師匠にあたるチャールズ・リケッツ(1866−1931)もまたイエイツの著作の装丁を手がけており、スタージ・ムーアの装丁に影響を与えるところが大きい。リケッツのほうがより幾何学的であるが、それゆえにシンボリズムが露骨になっているともいえる。以下に紹介するものはイエイツの戯曲集(1922)のジャケットとカバー、およびエンドペーパーにある一角獣図である。カバーデザインはそのまま魔術結社の知識講義用図版として使えそうである。一角獣はスタージ・ムーアがイエイツ夫人のためにデザインした有名な蔵書票を思わせる。このデザインは、マクミラン社が出すイエイツ本で何回も使用されている。

A sample of Yeats Book Design by Charles Ricketts

W.B. Yeats Plays in Prose and Verse, Macmillan, London, 1922.

Charles Ricketts (1866-1931), a mentor of Sturge Moore, did book designing for Yeats. His influence on TSM is obvious, but we might say Ricketts was too open in his dealing of Yeats's occultism. The dustjacket serves well as a diagram for a Knowledge Lecture of a magical order. And the unicorn on the endpaper reminds one of the TSM's famous unicorn bookplate designed for Mrs Yeats. Macmillan Co. used the design several times for their Yeats books.
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dustjacket cover endpaper