The Tower 塔


イングペン編『ウィリアム・トマス・ホートン』所載、「太陽神殿」。
1898年5月23日製作。


 塔のカードはイングペンのホートン遺作集から選んでいる。ホートンは実に多くの建築物イラストを残しており、選択の幅は広いのである。この一枚はいまだアルカヌムとして正式採用には至っていない、と宣言しておこう。他にも嵐の海のなかに孤立する灯台の図など、実に好ましい作品が存在しているのである。
ならば、なぜそれを採用しないかといえば、やはりこの太陽神殿図の魔術的意味が勝ったためなのである。1898年5月頃といえば、ホートンが幾多の不可思議に遭遇している時期でもある。イエイツ宛ての書簡にいわく、「親愛なるイエイツ、昨晩ぼくのもとを訪れた、ということはなかったですか? 午前4時半頃、あまりに鮮烈な夢を見たので起きてしまった。きみがうちに来て、それでぼくはモノクロのイラストを数多く披露していた…ぼくたちは普段着姿で、きみはタバコを吸っていて、なんともご機嫌な様子で、いろいろと不思議な面白いことをしゃべっていた」。その際のイラストの一枚がこの「太陽神殿」と思われるため、とりあえずの採用となったのである。

 さればこの太陽神殿には「魂の道」的にいかなる意味を負わせるのか。おそらくは人類の主要な達成、ひとつの帰結、さらに僭越から高慢と見れば無難であろうか。


ちなみに小生はホートンと似通ったセンスを持っているらしい。かつて冗談半分で作成したいわゆる「うじゅぱタロット」の塔において、高塔よりパラシュートで脱出する阿呆の図を描いたことがあるが、ホートンにも同様の脱出図が存在する。聖書図像学的に見ると、高塔よりの脱出はダビデがサウルに暗殺されかけたときにミカルの手引きによって逃げおおせるシーンに相当する。さらに予型論では「ミカルの手引きによって難を逃れるダビデはエジプトへ逃避することでヘロデの剣を免れるイエス・キリストの予型である」となる。

 参考として左に「脱出」図を出しておく。これも「塔」の候補といってよい。

 



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