Judgement 審判

私の目のまえの光が変化しはじめた。大いなる“門”の上空全域で、あらゆる色彩を放つ炎の舌が生きているように動いた。この燃え上がる舌というか剣のようなものが徐々に巨大な円を形成し、周囲の闇の壁を吹き飛ばした。そしてこの円のなかから、死せる太陽たちの霊に誘導される形で、冠をいただく“さまざまな館の都”が降下してきた。芳香と詠唱も伴っていた。その壮麗の前にはいかなる想像力も折れ、ヴィジョンもその眼を覆うであろう

H. Rider Haggard, Mahatma and the Hare, (London : Longmans, Green and Co., 1911). p.161.


 審判の札にはライダー・ハガードの小説『マハトマと野兎』所載のホートン作品を採用している。場面は上にある引用文の通り黙示録に準拠した「審判」の場面であり、絵の出来といい差し替えは考えられない一枚といえる。

 『マハトマと野兎』はハガードの異色作である。すべての生命が死後に「大いなる門」の前に集まり、審判を待つ。たまたまその場に居合わせたマハトマが目撃したものは、無残に殺された野兎の魂と、その死の原因を作った人間との対決であった。アフリカを舞台にする破天荒な冒険談を期待した人は唖然とするであろう。

 ホートンとハガードは1899年以来交友を結んでおり、さまざまなオカルト系情報を交換していた(ハーパー教授によれば、現存する書簡は14通のみとのこと)。ホートンはおそらくハガードの名作『洞窟の女王』(大昔に失った恋人が再び転生してくるまで待っている神秘の女性)に心打たれるところ大であっただろうから、『マハトマと野兎』のイラストを打診されたとき、二つ返事で引き受けたと思われる。無論のこと上にある一文はハガードのそれであるから、ホートン自身の最後の審判観はわからない。ホートンといえばトマス・レイク・ハリスの信奉者とされているが、1906年にマルティニスト・オーダーに参入しているところを見ると、その時点でハリス教団とは切れていると見るべきである。この絵を描いた1910年になれば、ハリスを原点とする独自の神秘思想を形成していたと思われ、その表明の書が「魂の道」なのであろう。



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