アルカナXVIII

文字 Tsadi (TS) -- 数字 90

薄闇 : 欺瞞


 TS−90は神界にあっては無限なるものの深淵をあらわす。知識界にあっては本能の力に身を委ねた霊を包む闇をあらわす。物理界にあっては欺瞞と隠れた敵をあらわす。

 アルカナXVIIIは半分雲に覆い隠された月が薄闇のなかに野原を照らし出す姿であらわされる。不毛の荒野に伸びていく道があり、道の両側に二つの塔が立っている。ひとつの塔のまえに犬がしゃがみこむ。もう一方の塔のまえでは、犬が月に吠えている。両者のあいだにカニがいる。これらの塔は隠された危険を予見できない偽りの安全を象徴している。

 大地の息子よ、心に刻むがよい。未知に立ち向かう者はだれであれ死と直面するものなり。片方の犬に象徴される敵意ある霊が待ち伏せをなす。他方の犬に象徴される卑屈な霊はいやしい追従をもって裏切りを隠蔽する。カニに象徴される怠惰な霊は惨事などつゆほども気にせずにただ通り過ぎる。目を見張れ、耳をすませ−−そして他者に決して真意を明かさぬ術を学ぶがよい。

‐‐ ポール・クリスチャン 『魔術の歴史と実践』(1871)

参考


エリファス・レヴィ 「月、露、水から陸へあがるカニ、二つの塔の土台に鎖につながれて月に吠える犬と狼。地平線に消える血塗られた小道」-- 『高等魔術の教理と儀式』 (1855)


パピュス 「草原を区切る二つの塔、月よりふりそそぐ血の雫。血塗られた道が地平線へと消えていく。野原の中央では犬と狼が月に向かって吠えている。ザリガニが水から出て二頭の獣のほうへ這いよっていく」 -- 『ボヘミアンのタロット』 (1889)


ウェストコット 「第18のタロット・トランプは月と称される。空の月が露のしずくをふりそそぐ姿であらわされる。月下の大地には二つの塔が建てられ、そのあいだに犬と狼がいる。前景には水があり、そのなかをザリガニが泳いでいる」 -- 『サンクタム・レグナム』 (1896)


ウェイト 「この札が一部の伝統型と異なる点は、月がいわゆる慈悲の側すなわち観察者から見て右側へと満ちている点である。月には正副それぞれ16本の光条がある。この札は霊の生命とは別の想像力の生命をあらわす。ふたつの塔のあいだの道は未知への道である。犬と狼は脱出の場所をまえにした本能的恐怖である。道案内となるものは照り返ししかないからである」 -- 『タロット図解』 (1911)


解説 : 月のカードは解釈がむつかしい。月よりふりそそぐものが血の雨か夜露か、それも定かではないのである。それどころか、そもそも「降り注いでいる」かどうかを疑ってかかる必要があるだろう。伝統的マルセイユを見るかぎり、太陽のカードと月のカードでは雫の向きが逆である。重力的観点からいえば、月のカードは地上から雫を集めていると見るほうが正しい。この点に関してはウェイトの解釈が曖昧ながらも適切であろう。
 月は地上から死者の魂を集める。太陽は地上へ新たな生命をもたらす。この組み合わせならすっきりしていてよろしい。



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