Biblia Pauperum 『貧者の聖書』

 中世に作成された宗教教育目的の絵本といってよい。旧約聖書と新約聖書から関連する場面を選び、いわゆる「予型論」を展開する。素朴な木版の図像に若干の文章をつけたシートが40枚(後に50枚)、レイアウトはほぼ同一となっている。予型論のなんたるかはここで解説するよりも実際の木版画と解説文をご覧いただくほうが早いであろう。下に並んでいる a, "a"といったリンク形態の意味もご理解いただけるはずである。

 「貧者の聖書」という字面から判断すれば、あたかも低所得階層のためのペーパーバックの如き雰囲気であるが、実際はあまり裕福でない修道院や教会のための布教用教材であったといわれている。印刷術の発達以前、大判の聖書は羊皮紙に手彩色を施す豪華な宝物であり、教区全体で一冊あるかないかという貴重品であった。そこで15世紀初頭くらいから木版を用いて作成されたのが「貧者の聖書」であった。多数の教会や修道院が同一の図版を用いて宗教教育を行うという状況は、汎ヨーロッパレヴェルでのキリスト教ヴィジョンの視覚的共有をもたらすことになった。

 「貧者の聖書」はまたキリスト教イコノグラフィーのベースとなり、デザインの見本帳としての役割も果たすことになった。ここに見られる図版は手彩色時祷書に採用され、あるいは印刷時祷書にも登場するのである。当然ながらこれが後代の木版タロットにも影響を与えたとするのが当博物館の見解であり、ゆえに全図版40枚を入手して紹介することにした。西洋魔術研究においてキリスト教図像学の知識は必須であり、その点でも有益な企画であると自負している。

 当サイトに収録する「貧者の聖書」は J. Ph. Berjeau の編纂になる Biblia Pauperum (London: John Russel Smith, 1859)をスキャンし、同書にある解説を適宜要約して付録としたものである。Berjeauの原本は大英博物館に数点保存されている「貧者の聖書」のなかの一点とされている。原書の図版はクリーム色の紙面にセピアの輪郭線で描かれており、やや明瞭さに欠ける面があった。サイト収録の際にコントラストを上げて明確なモノクロにしておいたことも報告しておく。


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